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小川哲『君が手にするはずだった黄金について』読了+読書日記1314

小川哲『君が手にするはずだった黄金について』新潮社 (2023)

つづきを読み終えた。

 

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感想

 

物語の進むテンポが早く、無駄な文が削られて一冊にストーリーが凝縮されている。

自分は古典のように、明らかに無駄と思える文章があれば萎えるものだが、本書は最後まで飽きさせなく、目線を文章へと引きつけさせるような本であった。

 

 

比較的新刊なのでネタバレはなしにしたい。

物語のメインテーマは「虚構」や「承認欲求」であるように思えた。

コンプレックスの塊のような片桐という人間が投資にハマり、SNSでお金持ちアピールしたり、認められたいという気持ちが透けて見える描写は現代の病理であるように思えた。自分も例外ではない。

だから自分は最低限、承認欲求というものの本質だけは考え抜いた。

 

 

その本質を、敢えて結論だけ書きたい。

「承認欲求とは、何も無いもの、何の裏付けも無いものによって自身が正当化されることを是とする、空疎な情動である」

 

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読書日記1314

読んだ本

池田晶子『考える日々 全編』毎日新聞出版 (2014)

デニス・ウェストフィールド『日本人という呪縛』徳間書店 (2023)

中上健次中上健次エッセイ撰集 [ 文学・芸能編 ] 』恒文社 (2002)

エドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』みすず書房 (1999)

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日記

 

『考える日々 全編』

通勤時の車内と帰宅したあとに読んだ。

やはりいつ読んでも面白い。

政治とお金のエッセイもあった。裏金問題のあった昨今のタイムリーなトピックでもある。

 

 

全ては「嫉妬」で説明可能というわけなのである。

自分も薄々感じてはいるところであった。

誰かが得をしても直接的に自分が損をしている訳ではない。

にもかかわらず、怒りの感情が湧くことに池田晶子は理解不能だと語る。

それはつまり彼ら政治家が羨ましいのだ、ということを書いていたが、これは正解だと思われる。

 

 

怒っている人間はお金が欲しくてたまらないのである。

お金があることに越したことはないが、お金が大量にあったところで、普段から思考する癖のない人間は欲にかられて不自由になり、所詮浪費して終わるに過ぎない。

オルテガ・イ・ガセットは、精神には法と秩序が備わっていなければならないと書いていたが、裏金問題に怒りを覚える大衆というものは所詮、軸のない、何か波が迫ってきたらすぐに流されてしまう憐れな存在なのである。

裏金問題に怒り狂っている人間がいたらすぐに離れたほうがいいのである。

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日本に暇人が多いことは確定した。

自分はその背景にニヒリズムというものを多少覚えるのであるが、なぜ日本人はそうなってしまったのかまではなかなか掴めない。

 

"息抜き、気晴らし、暇つぶし、と人は言う。まるで娯楽の時間は、人生の時間ではないかのようである。まさしくこれこそが空虚、と私は感じる。暇つぶしをする暇があるなら、人生の時間と死の意味について、考えたらどうだ。(・・・)まあ、生き方はそれぞれ体質によりますけれど。けれど、子供ではあるまい、よい大人が、電車のなかでゲームに興ずるなど、彼らの脳内の空疎を思うと、なんだかこっちが寒いような感じになる。そんなふうに生きて死ぬ人、そういう存在の仕方が、私にとっては理解を絶する。人間が、ものを考えないなんて。" P168

 

・・・

中上健次エッセイ撰集 [ 文学・芸能編 ] 』

本書をぺらぺらめくると、知らない作家の話が多く目に入った。

けっこうな量の本を読んできた自負はあるが、日本文学は世界が広すぎて読書が追いつかない。

これはもはや不可能である。

自分が気に入った作家の本、偶然出会った本との繋がりを大事にしたい。

 

メモ

永山則夫の文芸家協会の入会拒否問題に触れて

"犯罪を裁くのは法律と国家である。文学者の集りである文芸家協会の役目では絶対ない。では文芸家協会の役目は何だろう。文学を生み出す弱い存在に想像力を働かす事である。手を差しのべる事である。それが文学、文物の新たな興隆にもつながる。" P352

 

・・・

『日本人という呪縛』

国際NGO国境なき記者団による「報道の自由度ランキング」。

台湾35位。韓国47位。日本68位。中国179位。北朝鮮180位。

 

 

日本、なんとかならないのか?

自分は大学生の頃、Japan TimesかNew York Timesか忘れたが、英米文化に関する講義で読んだ時も日本は低かった。

何も変わっていないではないか。

多少の怒りを感じざるをえない。

 

 

多様性の時代と言っても、言論が多様性とはとても思えない。

なにか不都合なことがあればすぐに陰謀論のレッテルを貼り付ける。

さすがの自分も低レベルな陰謀論は相手にしないが、議論の余地のある問題を陰謀論と片付ける雰囲気はなんとかならないのもか。

 

 

多様性なんて表面的なものでしかない。

それが68位という数字に端的に表れていると自分は思う。

その面、大型書店は多様性の良い例であると自分は思う。

 

 

著者は、あるスポーツがなかなか放映されないことを、裏の背景とともに考察しているが、なかなか面白いと感じた。

また、外国人からすれば日本のアナウンサーは棒読みでスピードが遅くイライラするそうである。

たかが一人の外国人の意見でしかないが、たまにはこういった本を読むのも悪くないと思えた。

 

・・・

『崇高と美の観念の起源』

つづきを読み進めた。

(読書日記1313に収録)

 

nainaiteiyan.hatenablog.com

 

崇高に関する考察が始まった。

どんなに強力な快も、どんなに強力な苦には勝てないとバークは繰り返し書いている。

 

 

人間の歴史は自然というものを理解し、支配(もしくはコントロール)しようと努めた歴史とも言える。

恐怖心が生起する要素には「不確定性」「予測不可」「曖昧」「無限」といったものが挙げられる。

誰かが、人間の不安の源泉は情報不足だと書いていたが、ピッタリだと思った。

 

 

明晰であるというのは「小さな観念」でしかない。

ということをメモした。

 

読みごたえがある。

 

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関連図書

 

池田晶子の本

 

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