読んだ本
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日記
引き続き昨日のつづきを読み進めた。
・『漂白のアーレント 戦場のヨナス』
・『日本人のためのイスラム原論 新装版』
(読書日記1286に収録)
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『漂白のアーレント 戦場のヨナス』
アーレントとヨナスの生涯が描かれる。
読みやすさと内容の深さに興味が涌き、100項までいっきに読み進めた。
アーレントのほうは『ハンナ・アーレント、三つの逃亡』と内容が重なる箇所もあり、さらっと理解することができた。
昨日はユダヤ人の迫害の原点が、キリストがユダヤ人によって処刑された歴史的事実にあるということを学んだ。
また、ユダヤ敵、ローマ帝国がエルサレムに神殿を築き、その土地の名称が「シリア・パレスチナ」であったことも学んだ。
加えて、故郷を追放されたユダヤ人が離散した状況にあることを「ディアスポラ」と呼ぶ。
旧約聖書には、古代イスラエル人は神によってパレスチナを与えられた、ということは小室直樹の本を通して学んだ。
(読書日記1282に記載)
たしかこれは紀元前の話であった。
また、小室直樹によれば古代イスラエル人は暴力によってパレスチナを占拠した。
その数百年後に今度はローマ帝国がパレスチナの土地を奪った、という流れだと思われる。(間違いがあれば後日修正。)
パラスチナ問題は2000年前から既に勃発していたと言える。
そのような流れが読書日記1286までの内容であった。
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メモ
・グノーシス主義について
"グノーシス主義とは何か。今日においても専門家の間でその結論は出ていない。" P46
・アーレントと『ラーエル・ファルンハーゲン』について
アーレントは博士論文を書いたあとに『ラーエル・ファルンハーゲン』を執筆。
ユダヤ人女性として生きることの難しさを描いた。
⇒マックス・ウェーバー「賎民(=パーリア)」がここに表れている
賎民については読書日記1283に記載。
"この伝記を通じてアーレントが描き出したのは、ユダヤ人女性として近代を生きることの難しさであり、ユダヤ人が社会に「同化」することの不可能性であった。(・・・)ユダヤ人として生まれてきた限りは「自覚的パーリア」としてこの世界を生きていくしかないこと、「ユダヤ性から逃げられはしない」ことを、アーレントはラーエルの生涯を巡りながら改めて確認し、その決意を固めていったのだと想像できる。" P62
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メモ
パレスチナ問題とイギリス
イギリスのフサイン=マクホン協定
⇒アラブ人に対して独立を認める
イギリスのバルフォア宣言
⇒ユダヤ人の国家建設を認める
⇒しかしフサイン=マクホン協定は反故にされる。
"戦後、国際連盟からパレスチナの委任統治権を獲得したイギリス人は、バルフォア宣言を履行するために、ユダヤ機関を設立し、ユダヤ人の移住と定住を促進しようとする。この間パレスチナの委任統治政府は実質的にユダヤ人による準政府として機能しており、シオニスト労働党がその主導権を握っていた。言うまでもなく、それはフサイン=マクホン協定が反故にされたことを意味する。" P76
⇒その結果、1921年にアラブ人勢力がバルフォア宣言の破棄を求めて暴動を起こした
1925年、エルサレムにヘブライ大学が開設される。これによってエルサレムにおけるユダヤ勢力が拡大
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ハンス・ヨナスはユダヤ人の哲学者であり、ハイデガーのゼミ生であった。
しかしのちに、ハイデガーのナチ加担によりヨナスはハイデガーを批判的に乗り越えようとする。
ヨナスはパレスチナに赴き、ゲルショム=ショーレムらと合流し、戦争の参加を呼び掛けたという。
本書を読みながらナチスに対する強烈な怒りを感じた。
ヨナスは宗教に縛られない思考を持っていた。
そのため「ユダヤvsキリスト」という見方はせず、むしろ両者をイスラエルの遺産とみなした。
ナチスの台頭により、ヨナスは第二次世界大戦を「西洋的な人間性vsナチス」とみなし、ユダヤ旅団に入隊し、実際に戦争に参加した。
目の前で同士が倒れていく光景をヨナスは見た。
この経験を経て、ヨナスはハイデガーの哲学が現実離れしていると痛感。
そのため、ヨナスの哲学は本当の意味で生命の哲学に近いと言えるのではないだろうか。
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しかし、ヨナスがなびいた「シオニズム」は、ナチスと共通点を持っていた。
この点に関してアーレントは絶望を抱いたという。
"シオニズムはユダヤ人国家の設立という目標を追い求めた結果、次第にナショナリズムへと傾倒し、イギリスの帝国主義政策に組み入れられ、さらにそこから全体主義的運動にまで接近してしまったのだった。" P96
(アーレントが絶望を抱いたのは)"ユダヤ人だけの国家を作るという傲慢さであった。それは、ドイツからユダヤ人を閉め出して、優秀なアーリア民族だけの帝国を築くというナチスの試みとどれだけ違うものなのだろうか。一体、ユダヤ人たちは何のためにこれまで戦ってきたのか。" P98
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現代につながるパレスチナ問題の発端。イギリス政府の怠慢
"第二次世界大戦後、エルサレムをめぐる状況はいっそう深刻なものとなっていった。イギリスによるパレスチナの委任統治は一九四七年まで続いたが、ユダヤ人とアラブ人の間でますます高まる軋轢に対して、イギリス政府は事実上その調停を投げ出し、その役割を国際連合に委ねることになる。一九四七年一一月二九日、国連総会はパレスチナの再分割をめぐる投票を行い、以下の案が決議された。すなわち、ユダヤ人国家はガラリヤ地方と沿岸平野、ネゲブ地域から構成され、エルサレムは国際管理地区に、残りの地域がアラブ人国家に属するという分割案である。しかし、一九四五年にカイロで設立されたアラブ連盟は、この案への反対声明を出し、武力でもって対抗の宣言をする。他方、ユダヤ人機関の代表であったベン=グリオンは、イギリスの委任統治が終了した一九四八年五月一四日に「イスラエル」と名づけられたユダヤ人国家の成立を宣言する。これを受けて、ヨルダン、イラク、シリア、レバノン、エジプトの正規軍がサウジアラビアとイエメンの援助のもとに一斉にイスラエルに大規模攻撃を仕掛けた。新国家イスラエルも武力でもってこれに対抗し、現在に至るまで続く惨禍の応酬の火蓋が切って落とされることになる。(正確にはイスラエル建国以前からアラブ人ゲリラによるユダヤ人居住地への襲撃は始まっていたが)。" P97
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『日本人のためのイスラム原論 新装版』
前回は、平和なイスラム教において(宗教に強制なしがイスラム、隣人は人間ではないから殺してよいがキリスト)「テロ」と「宗教の寛容」がなぜ両立するのか?という問いが残されたままであった。
ひとまず地道に読み進めた。
・「救済」からみるキリストとイスラムの違い
”ユダヤ教もキリスト教もともに救済された人間は、天国だとか極楽だとかに行かない” P226
⇒そうではなく、永遠の死か、永遠の生か。
救済されたユダヤ教徒は「世界の主」になる、というのは読書日記1283に書いた。
キリストは「予定説」、イスラムは「因果律」によって救済が決まる
(前者は決定論的世界観=自由意志はない、後者は非決定論的世界観=自由意志はある)
自由意志については読書日記1270あたりでいろいろと書いた。
229項には「イスラム教の天国は、美女と美酒の楽園」と書かれている。
例えばイスラム教は飲酒が禁じられているが、日本人でいう「速度違反」程度のものらしい。
"イスラム教でも最後の審判が行われるとする。すなわちアッラーがすべての人間を蘇らせ、完全な肉体を与えたうえで、個別に救済の決定をするのである。" P229
”飲酒なんて、偶像崇拝とかに比べれば微罪も微罪。アッラーの神は多少の罪は見逃してくださるのだから、酒くらい飲んでも、その後に十分な善行を行えばその罪は帳消しになるという理屈も成立するわけである。” P232
だんだん「因果律」の感覚が掴めてきた。
「~をすれば救われる」
これはすべて因果律であり、キリストとは違う。
救済されたらどうなるのか?
小室直樹によれば、コーランには美酒がのべたり美女と侍ることができるようである。
(なんと男性中心的なことか)
また、救済されない場合は完全な肉体をもったまま永遠の苦痛が待っているという。
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9.11に対する小室直樹の解釈
"暗殺イコール悪、テロすなわち悪という図式は、世界共通のものではないということ。ここのところをきちんと理解しておかないと、今回の事件はいつまで経っても見えてこないのである。" P241
暗殺を理解するには中国の司馬遷を理解する必要があるのだという。
"古来、中国では刺客は尊敬の対象であった。一種のヒーローである。犯罪者、異常者扱いされるアメリカの暗殺者とは天と地ほどの違いだ。" P242
"イスラム理解の補助線として、「刺客列伝」の解読はきわめて重要なのである。" P246
要約すると、司馬遷は一度志を決めたことを守り、後世に名を残した者は例え失敗したとしても「犬死」ではないのだという。
・中国の「救済」
"歴史こそが個人を救済する。これが中国の歴史教である。" P260
つづく
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『モニュメント原論』
メモ
”彫刻家としてわたしはここで断言しておきたいのだが、戦後日本の彫刻にとって長崎はもっとも重要な場所である。そしてその重要さとは、長崎のグラウンド・ゼロにちりばめられた平和の彫刻群が、戦後日本における「平和」や「平和祈念」がいかに欺瞞に満ちたもの示しているという点にある。かの地の彫刻群は原爆の惨禍を二度と繰り返さないための警句ではない。あるいは、慰霊や追悼のためにあるのでもない。あれらは平和祈念という論法を用いた戦後民主主義の装飾にすぎない。” P56-57
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関連図書
アーレントの本
小室直樹の本