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読書日記1098

読んだ本

ティム・インゴルド『応答、しつづけよ』亜紀書房 (2023)

エドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』みすず書房 (1999)

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日記

 

暑すぎて思考が進まない。

とりあえず身体を動かして思考が進み始めた時にこの本を手に取った。

『崇高と美の観念の起源』というタイトルからして物凄く堅いイメージがあるが、カント『判断力批判』よりは明らかにスッキリ頭に入ってくる印象である。

 

 

バークの言いたいことは、日常的な経験と照らし合わせることができるのでわりと伝わってくる。

例えば、辛いインフルエンザが治ったときの「快感」と、楽しいスポーツに興じているときの「快感」をバークは区別する。

逆も同じで、楽しかった一日が終わったときの「苦」とインフルエンザの「苦」も区別をする。

区別というのは、「厳密には違う」という意味合いであった。

 

 

また、快感が一瞬にして消えたあとの心理状態として「無関心」「失望」「悲嘆」の3つが考えられるとバークは述べた。

無関心というのは「ぼーっとした状態」のようなものであり、「失望」は、例えば楽しみにしていたイベントが中止になった時の心理状態のようなもので、「悲嘆」は失望が長期的につづいている状態だと説明された。インフルエンザのような「苦」は愛せないが、悲嘆は時に愛せるという点で、「苦」にも種類があるということが伝わった。

このように、バークは日常的な事例に則して記述しているので読者もついていける。

カントはあまりにも抽象過ぎた。

 

 

また、つづいてバークは「美」について言及した。

一般的に、生殖は同じ種に属する個体同士で行われる。

膨大な種類の生物がいるにもかかわらず、自然は全ての個体でそれを可能にした。

したがって性と美はセットで考えるべきである、というバークの見方であるが、しかしこれはよく考えれば本当に神がかっている。

従って、美を考察するときには生物学、とくに進化論が関わってくるということが直感的にわかる。

進化論はなにかと人文系の学問にきりこむ。進化心理学や進化倫理学といった、生物学の知見を基盤とした研究は、かつては優生学を生み出してしまった。

 

 

『文学の再生へ』のなかで、物理学者の大沢文夫氏が、湯川秀樹の生物に関して述べていたことを語った。それは、生物は「部品主義」的であるというものであった。

実際、足を失っても簡単に人間は死なない。脳に関しても、部分的に失われても死なない。アントニオ・ダマシオ『デカルトの誤り』にその例について書かれている。

 

 

この部品主義であるが、人間と美について無関係であると思えなかった。

顔、声、髪型、体系など、いわゆる「フェチ」と呼ばれる個々の好みになんらかの普遍性があるとはあまり思えないが、進化論を部品主義的に読んでみると新しい発見がありそうである。

いわゆる「創発ゲシュタルト」のようなものであり、人間は機械ではないので部分の集合が全体と一致しないのは当たり前ではあるが、ひとつの見方としてはありである。

 

 

 

また、部品主義で思い出すのが、人間はどこまで人を愛せるかという本質についてである。

抽象的に言えば人間の愛は全体にのみ還元されるのか、それとも部分に還元可能か、ということである。

例えば声を失われても愛情は変わらない。むしろ強くなるかもしれない。

足を失ってもかまわない。手も、顔も。この究極が「残りは精神のみ」となった時である。

そしてその愛する人とチャットでしか会話ができなくなったとき、チャット相手が愛する人の性格を完璧にラーニングしたAIだったとしたら、それでもなお愛せるだろうか。そのような小説が実際にあった。

AIが人間の仕事を奪うどころか、人間性まで奪いかねないことを示唆する小説であった。

 

 

話が逸れてしまった。

進化論や美学も、読み方を工夫すればそれはそれで新しいものの見方ができるので楽しいものである。

また、ティム・インゴルド『応答、しつづけよ』という本も、科学が見逃してしまっている点を斬新な視点から論じられる。

例えば、数学には「線」という概念は必要不可欠であるが、実際に自然を見渡すとそれほど線に溢れていないことがわかる。

線というものは実は思考の産物であって、人間が世界の中心にいると思い込んでいると自然について誤った見方をしかねないといったことが伝わってくる。

こちらも刺激的で面白い本である。

 

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