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グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学へ (上) 』岩波文庫 (2023) 読了

グレゴリー・ベイトソン『精神の生態学へ (上) 』岩波文庫 (2023)

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感想

 

だらだらと読んでいたが意外にも早く、一週間弱で読み終えることができた。

それはやはりこの本が魅力的であるからに他ならない。

ベイトソンの分野横断的な思考に加えて、芸術と生命に対する価値観にも強く共感できる。

後者の点に関しては279ページにハッキリと書かれている。

 

まずベイトソンは、ディストピア小説すばらしい新世界』の著者オルダス・ハクスリーについて言及する。

"人間の行動は、目的心や自意識からくる「欺き」によって汚されている、おのれ自身すら人間は欺く、その理由は動物たちがいまも持っている「優美さ(グレイス)」を人間が失ってしまったことにあるーーとオルダスは考えた。" P279

 

 

ベイトソンは次に、芸術が優美さを取り戻すヒントになることを語る。

"この失われた「優美さ」の(部分的)回復を目指すものとして、わたしは芸術というものを位置づけたい。" P279

 

 

上巻を通読して、ベイトソンも文明に対する危機感を持っていたのだろうと自分は解釈した。

今月24日、汚染水が海底から放出されたと発表された。

今後も地球の海は還元不能物質で満たされていくだろう。

プラスチックや放射線物質がエントロピーの法則に従って均等に分散していくのだ。

 

 

「ただちに問題はない」どころか、「問題ないです」という論調にすり変わっている。

たしかに現時点で問題はないかもしれないが、放射線物質が海に流されているという事実は変わらない。

自分は十分に勉強しきれていないが、環境省のHPを見ると、基準値を下回るまで処理しているとのことだが、62種類の放射線物質というのが気になった。

緊迫した状況ではないかもしれないが、未来は基本的に予測不可能であって、何が起きるか分からない。自分は今後も政府のやることにはアンテナを張っていきたい。

 

 

こういうときにトインビーの文明論(『歴史の研究』など)を読んでおけばもっと違うことが言えるのだろうと思う次第だ。トインビー『歴史の研究』を失明しそうになるまで死ぬ気で読んだ執行草舟氏によれば、もうどうしようもないという。若者言葉で言えば「地球、オワコン」だ。

 

 

芸術というよりも、自分は美学的な視点でなにができ得るかを考えてきたい。

アートは投資の対象になりやすく、個人的にアートは基本的にはアウトだと思っている。

それでも一握りの、本物のアーティストがいることは否定しない。

 

・・・

 

後者について言えば(ベイトソンの分野横断的な思考について)、自分は「散逸構造流動性あるなかで秩序が生まれること)」とアナロジーについて考えさせられた。

前回、自分は意味の不定性、不確定性について述べた。

世の中に絶対的に正しいことがないのはこの不定性によるのではないかと考えた。そしてそれは量子の世界における予測不可能性とアナロジーではないかとも述べた。

 

 

もう一度書くと、散逸構造は動的なもののなかに生まれる秩序である。

コミュニケーションもまた動的であり、「空気」というものが存在する。

つまり「空気を読め」と言われるとき、その「空気」には秩序があると言えないだろうか。

このとき、「空気」とは「コンテクスト(=文脈)」である。

 

 

この文脈を整理、理解しきれない特性を持つ人が昔は「アスペルガー」だの、なんだの言われてきた。

たしかに文脈はある。そして「ダブルバインド」は日常的に多発している。

まだ上巻しか読めていないので詳細は分かりかねるが、そっちのほうに(つまりダブルバインドだらけの社会)問題があるんじゃないの?というのがベイトソンの立場だとすれば、なんとも滑稽な話ではないか。

 

 

絶対的に正しいことはないという本質にこの意味の不定性が関係していると仮説を立てれば、このダブルバインドが多発し、空気を読めない人間を排除する社会自体にやはり問題があるのではないだろうか。

「コミュ障」というのももしかすればこの構造の犠牲者なのかもしれない。

 

 

あらゆる社会問題は言語上の問題に還元されるのではないだろうか。

この息苦しさ、ヘイトや対立で溢れているようにみえるネット社会、現実社会のカオス的状況は、個々が言葉というものの本質から敢えて逃げているから生まれるのではないだろうか。

自分は上巻を読み終えてそのように感じた。

 

 

中巻へとつづく

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