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ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス 上:テクノロジーとサピエンスの未来』河出文庫 (2022) 読了

ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス 上』河出文庫 (2022)

つづきを読み終えた。

 

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感想

 

まだ全体としては半分しか読めていないので、今日読んだ内容を軽くまとめ、最後に振り返りを行いたい。

 

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230項よりあとは貨幣、文字などによってもたらされた「虚構」の力、そして今後の科学と宗教の在り方について語られた。

自明であるがお札自体には全く価値がなく(使用価値と呼ばれる)、それは国がなんらかの宣言によってお札に価値があることが予め保証されているが故に貨幣は機能する。

よってお札には価値があるという「共通前提=虚構」が人間の頭にインプットされる。

ハラリ氏は動物と人間の能力を別つ決定的な要素は、このように想像力によって共有される「虚構」の有無であると語る。

 

 

動物にも心や意識があることについては本書では否定されていない。

厳密にそれを証明することは、それぞれの動物の主観的な話となるので反証ができない。

しかしそれでも「ある」という見方が現代科学の見方であるようだ。

 

・・・

 

お札自体には価値がないが、「虚構など存在しない」と考え、「お札はそれ自体に価値がある」と考えるのは馬鹿げている。

本書では、とある国で「今日から○○札は使用禁止」と宣言され社会が混乱した歴史について書かれていた。

社会科学の難しいところはこの点にあり、想像力(=虚構)という主観的な要素でさえも、事実(この例では、お札の価値は人間の認識能力、想像力にかかっているということ)は存在しているという点にある。

客観的でありながらも主観的である問題。だからこそいつまでも議論と問題が尽きないのがこの社会科学の難しいところである。

 

 

本書には、文字の登場によって虚構の力がさらに強化され、現実を変えるまでになった話が書かれていた。

毛沢東が農業生産量を二、三倍増やすように命じたところ、実行不可能であり書類上で水増しが行われた。結果的に多くの人が亡くなるという悲劇を招いた。

虚構は本来「つくりもの」であるはずだが、その「つくりもの」が現実をねじ曲げた例である。

 

 

ハラリ氏は「虚構」の問題は21世紀において重要な位置を占めることを語る。

"人間の虚構が遺伝子コードや電子コードに翻訳されるにつれて、共同主観的現実は客観的現実を呑み込み、生物学は歴史学と一体化する。そのため、二一世紀には虚構は気まぐれな小惑星や自然選択をも凌ぎ、地球上で最も強大な力となりかねない。したがって、もし自分たちの将来を知りたければ、ゲノムを解読したり、計算を行ったりするだけでは、とても十分とは言えない。私たちには、この世界に意味を与えている虚構を読み解くことも、絶対に必要なのだ。" P262(『ホモ・デウス 上』)

 

・・・

 

 

科学は事実しか扱わない。

事実の限りない蓄積が今日のテクノロジーを生み出している。

しかしながら、科学は意味を与えることはできない。

事実しか扱わない科学には「人生にはどんな意味があるか」という問いの答えを出すことはできない。

宮台氏は『崩壊を加速させよ』のなかで、この問いは論理的に不可能(=背理)であると語っていた。

 

 

そこで宗教がある程度意味を与える役割を担う。

しかし宗教の力をほとんど失っている現代を考慮し、ハラリ氏は広義の意味での「信念」であるとした。

「自分は○○だけは譲れない」といった信念は「価値」の話であり「意味付け」されたものである。

科学を絶対的な価値指標とすることもひとつの「信念」となり得る。

科学は形態を変えた宗教とも言える。

 

・・・

 

本書の全体をふりかえると、非常に広範囲な領域(歴史、心理学、生物学、脳科学など)を扱っているので単に思想的な本ではなく、事実に裏付けされたサイエンス・ノンフィクションといった印象であった。

 

 

既に知っていることも多くあったが、知らないことも多く書かれており、文庫本ということもあって廉価でこのような本を読めることを嬉しく思う。

また、本書で得られるのは概ね歴史的な知の割合が高いので、人間の普遍的なことに関する知見からこの先の未来をどのように後半の下巻で展開されていくか興味深い。

 

つづく

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