参考記事
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答え:知らないことを知らないから。
教育は知識を与える、と誰もが信じている。学校は「学びの場」と呼ばれ、そこで過ごす年月が長いほど「知恵が身につく」と思われている。しかし、ここに逆説が潜んでいる。もし教育を受けたら、なぜ無知になるのか?この問いはイリイチの『脱学校の社会』を思い出させると同時に、タレブが語る「知識の幻想」とも共鳴する。
教育制度は知識を「商品」として供給する。カリキュラムは工場のラインであり、教師は供給者、生徒は消費者だ。だが、工場で作られる商品は均質でなければならない。多様な好奇心や異質な才能は「規格外品」として廃棄される。つまり、教育制度が進めば進むほど、人間は「規格内の知識」を信じ込み、それ以外の知を排除する。これこそ「教育が無知を生む」第一の理由だ。
無知とは「知らないこと」ではない。本当の無知は「知らないことを知らない」状態にある。学校教育は「答えのある問題」に慣れさせる。問いを立てるのではなく、与えられた問いに答えることが学習とされる。その結果、教育を受ければ受けるほど、人間は「知らないことを知らない」状態に閉じ込められる。これは無知の完成形だ。
イリイチは教育制度を「専門家による支配」として批判した。学びは制度に独占され、資格や学位が「学んだ証」とされる。だが、それは「学ぶ」という行為を奪う装置でもある。なぜなら、資格を取るための勉強は「試験に出ること」に限られるからだ。知識の地平は狭められ、世界は「試験範囲」に縮小される。その結果、教育を受ければ受けるほど、世界の広さを見失う。無知が拡大するのだ。
タレブ流に言えば、教育は「脆弱性」を増幅させる。偶然や誤配に強い知識こそが生き残るのに、教育は「一つの正解」に依存する。試験に合格する知識はブラックスワンに弱い。現実が変われば役に立たない。実際、学校で学んだ公式や歴史の暗記は、社会に出るとほとんど忘れられる。だが忘れるのは自然ではない。それは「現実に役立たない」からこそ忘れられるのだ。つまり、教育によって増やされた知識の大半は、世界に適応できない「死んだ知識」だ。これほどの無知はない。
そして教育の恐ろしいところは、無知を「知識の形」に偽装することだ。人は学校で学んだから自分は知っていると信じる。しかしそれは「制度に承認された範囲」だけだ。承認された範囲の外側を覗く力は失われる。人は制度的に承認されない問いを「愚問」とみなし、そこに目を向けなくなる。これが最大の無知である。
たとえば、哲学の授業では「正しい答え」は存在しないはずだ。問いの迷路を歩き続けるのが哲学の本質である。しかし、教育制度の中では「カントの立場は○○である」と記憶することが評価される。つまり、「哲学を学ぶ」ことで「哲学しない」人間が量産される。これこそ教育によって生まれる無知だ。
社会においても同じことが起きる。高学歴であればあるほど、「専門外のことには口を出さない」態度が根付く。これは謙虚に見えて、実際には「自分で考えない」ことの言い訳になる。イリイチ的に言えば、学びの自立が奪われている。タレブ的に言えば、「知の分散性」が殺されている。教育を受けるほど、自分の頭で考えない無知が深まる。
さらに恐ろしいのは、教育によって「失敗の価値」が奪われることだ。試験は失敗を罰し、効率を求める。しかし現実の知は失敗からしか育たない。ブラックスワン的な出来事に備えるには、失敗を蓄積するしかない。だが教育制度は「正解以外を切り捨てる」。この瞬間、人は世界に対する耐性を失い、逆説的に「最も教育を受けた人間ほど最も無知になる」という事態が起きる。
私たちが必要としているのは、制度の外での学び、誤配による知、偶然との出会いである。ジュンク堂の棚で誤って手にした一冊が、人生を変える。会話の中の勘違いや聞き間違いが、新しい視点を開く。これは制度の外にしか存在しない学びだ。教育は「誤配」を排除しようとするが、それこそが知の根源なのだ。
もし教育を受けたら、なぜ無知になるのか?その答えはこうだ。教育が与えるのは「知識」ではなく「知識の幻想」である。知っていると思わせること、考えなくてもいいと思わせること、制度の外に出なくてもいいと思わせること。これこそ無知だ。教育は無知を商品として供給しているのだ。
だから、教育から解放された学びだけが本物の知を生む。制度の外、誤配の中、偶然に強い知識。イリイチが語った「脱学校」はこの自由を意味する。タレブが語った「反脆弱性」もまた、この自由を意味する。つまり、本当の教育は制度の外にしか存在しない。
教育を受ければ受けるほど、私たちは「知らないことを知らない」人間になる。だが制度の外に出れば、「知らないことを知っている」人間になれる。前者は無知、後者は知恵。もし教育を受けたら、なぜ無知になるのか?──それは、教育が知を与えるふりをして、知の可能性を奪うからだ。
最後に・・・
あなたの学びは制度の中にありますか、それとも外にありますか?
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